オリジナルな研究とひとりよがりな研究

今日の授業で話したことから。

山口治彦先生の新しい本『明晰な引用、しなやかな引用』(くろしお出版)が刊行されました。いただいたばかりなのでまだきちんと読んでいないのですが、目次の項目に「先行研究との対話」というところがあったので、それについて考えたことをお話しします。

これからお話しすることは、山口先生のもともとの意図と合っているかどうかは分かりません。あくまでも私自身の考えです。

卒業論文を書いている皆さんの中には、「オリジナルな研究にしたい」と考えている人もいることでしょう。それでは、オリジナルな研究とはどういう研究でしょうか。

すぐに思いつくのは、「自分の頭で考えた研究」ということでしょう。たしかにオリジナルな研究は自分の頭で考えたものです。でも、それだけでは、ひとりよがりな研究と区別がつきません。ひとりよがりな研究だって、「自分の頭で考えた研究」なのです。

それでは、オリジナルな研究とひとりよがりな研究はどこが違うのでしょうか。

それは、「対話」があるかないか、ということだと思います。

卒業論文では、「先行研究に言及する」ことが求められると思います。でも、「先行研究の紹介」とその後に来る「自分の研究」との間に繋がりがなければ、「何のために先行研究を紹介するのか」という、紹介する意味がありません。そこには「対話」が必要なのです。「対話」することによって、自分が変わっていく、ということが必要なのです。

先行研究と対話するということは、具体的には、次のような形をとります。まず、先行研究の優れた点を明らかにして、それが自分の研究ではどのように生かされているかを明らかにすること。そして、先行研究の問題点を明らかにして、それが自分の研究ではどのように解決されているかを明らかにすること。この2点です。

「自分の頭で考える」ことは確かに大事なことです。それを否定するものではありません。一方、「対話」によって自分が変わるということは、自分の頭で考えることと矛盾するかに思えるかもしれません。が、これは矛盾するものではありません。

先行研究の優れた点と問題点を明らかにするということは、先行研究に対して「評価」をするということです。これは、自分の頭を働かせてすることです。また、「優れた点を生かす」「問題点を解決する」これらはいずれも、自分の頭を働かせることです。つまり、対話しながら自分の考えを作っていくということは、自分の頭で考えることと矛盾するものではなく、むしろ積極的に頭を使うことになるのです。

卒業論文でオリジナルな研究をしたいという人は、ぜひこのようなことを頭において、優れた研究に仕上げてください。