事故対応マニュアルの書き方

まったくもってたいへん唐突ですが、私は以前から事故対応マニュアルの書き方に関して一家言あります。今日はそれに関して書いてみたいと思います。

以下に書くのは、あくまでも一般論です。というか、色々な事故対応マニュアルに適用可能であることを望みながら書きます。


大きなイベントが行われる時、大小の事故が発生することを想定して、あらかじめ詳細なマニュアルが用意されて配布されることがあります。マニュアルがあるのは大事なことです。それも、漠然としたものではなく、ある程度詳しいマニュアルがあるのはありがたいものです。

ですが、難しいのは、時にそれが、「詳しく書けば書くほど、現場で実行する人間が不安になる」というパラドクスに陥ることがあるらしいということです。それは典型的には、次の論理形式で記述されたマニュアルで起こります。

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○ 時点Aに事象Bが発生したら対応Cを実行してください。
○ 時点Dに事象Eが発生したら対応Fを実行してください。
○ 時点Dに事象Bが発生したら対応Gを実行してください。
○ 以下、これが延々と続く。

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このタイプのリストが与えられると、人は(というか、私の知っている範囲でのかなり多くの人が)、不安になります。「こんなにたくさん場合分けがあるのか」「覚えきれない」「現場でこれが発生したとき、うまく対応できる自信が無い」と。


場合によっては、このような不安があることをマニュアル作成者が認識していることもあります。それで、「分かりやすく」するために、対応をフローチャート形式で示したりします。「見える」化という奴ですか?


でも、実は「見える」化(?)では、不安は根本的には改善されません。


そもそも上の不安が、なぜ出てくるのかが問題になるからです。それは、私が推測する限りでは、次の理由によります。

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○ 対応の原則が示されていない。
○ この時点でこの事象が発生したらこのような対応を求めるのは、なぜなのか、が示されていない。

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だから現場の担当者は、「時点/事象/対応」の組み合わせを、膨大なリストの形で覚えるしかないわけです。それが簡単にできることであれば不安は感じないわけですが、実際は簡単ではないので、不安になるわけです。マニュアルが充実して詳しくなればなるほど、覚える項目が増えて、自信を失っていくというパラドクスが発生するわけです。


逆に、「この時この事象に対してこう対応するのはこういう原則に則っているからだ」ということが明示されれば、それに基づいて頭の中で知識が構造化されます。これは、事象発生時の対応を容易にするのではないかと想像されます。


知識が構造化された場合、現場で事象が発生した時の対応にそれが介入してくる可能性も、ゼロではありません。つまり、現場の判断ないし独断が介入しやすくなる可能性ということです。だから、マニュアル作成者に、「あらゆる関係者に対して厳密に同じ公平な対応がなされるようにしたい」という希望がある場合には、原理原則に言及することは好まれないかもしれません。


しかし、膨大なリストを処理するときに発生する「エラー」と、構造化された知識による判断ミスからくる「エラー」と、どちらが深刻かについては、検討する余地があると思われます。


何の話をしているかと言えば、もちろんこれは上にも書いたように一般論です。以前私が関わったことのあるイベントに関して、差し支えない範囲で書いてもいいかもしれないとは思います。が、それはまた後日ということにしたいと思います。