唐沢かおり氏論考についての感想

例の人文知の本の話で、唐沢かおり氏の「心はいかに自己と他者をつなぐのか」についての感想です。

この論考は他者理解についての社会心理学の知見を概観的にまとめていて、心理学専門以外の人が大きな見取り図を得るにはとても適した文章だと思いました。

私が自分自身の関心との関係で特に興味深いと思ったのは、同じ経験をすることの意味です。人は誰かと同じ経験をしたからと言って、その経験にまつわる相手の気持ちが正確に理解できるわけではないということ、ただ、相手が自分と同じ経験をしていると分かっている場合には、相手が自分の気持ちを理解していると思いやすい、ということを示した実験研究が紹介されています。つまり、他人とのつながりを維持強化するものとして大事なのは、「分かってもらってるつもり」だということのようです。

私自身は『知覚と行為の認知言語学』で、他者理解においては「相手のことを分かっているつもり」が大事なのではないかとスペキュレーションで書いていたのですが、唐沢氏論考で言われているのは「(自分が相手を)分かっているつもり」とは反対の立場の、「(相手に)分かってもらってるつもり」が大事ということです。

この、私が考えたのとは反対方向の「理解されてる感」が大事というのは、後知恵バイアスを思いっきり作動させて今になって考えると、私も気づいてもおかしくはなかったのです。この文章を以前読んで大学の授業の教材にしたりもしてたわけなので。でもまあ、思い当たりませんでした。

ということで、実はこの辺、今抱えていて不良債務化している某原稿にも関わる話なので、もう少しちゃんと勉強しなければいけないと思っています。